「山崎ィ」
山崎退は聞き慣れた声を耳にし、振り返った。
「何ですか、沖田隊長」
くるっと振り向いた山崎の手に、総悟はぽふんと何かを置いた。
「? 何ですか、これ」
山崎が不思議そうな顔をしながら手の中を覗き込むと、そこにはマヨネーズの容器によく似たプラスチック製品が握られていた。
「沖田隊長、なんですかこれ?」
「マヨネーズホルダー。見りゃわかるだろィ」
それは見てわかっても、何故自分がそれを握らされているのかが分からなかった。
総悟は言葉を続けた。
「今日、誕生日だろ?」
「……ああ!これ俺への誕生日プレゼントですか?!」
「ぶー」
嬉しそうな顔をした山崎の横っ面を、総悟は平手でひっぱたいた。
「あいたっ!てっ、何するんですかぁ沖田隊長!!」
「それ、土方さんが欲しがってたやつなんだよ」
「…え?」
「これ以上言わせんじゃねぇよこのノロマうすのろミントンバカ」
そう言うと、総悟は廊下をスタスタと引き返していった。
山崎は手に持ったマヨネーズホルダーを見つめた後、副長室へと向かった。
すると、副長室にたどり着く前に土方とばったり鉢合わせた。
「あっ、副長!!」
「…あん?」
機嫌の悪そうな瞳がじろりと山崎を射抜いた。しどろもどろになりながらも、山崎は手に持っていたものを土方の前に差し出した。
「あのっ、コレ…俺もらったんですけど、使わないんで…よかったら副長、もらって下さいませんか…?」
山崎の言う「コレ」を見たとたん、土方の態度は豹変した。
土方はぱあっと嬉しそうな顔になり、山崎からマヨネーズホルダーを奪い取った。
「おっ、これちょうど欲しかったヤツだ。悪ぃな山崎。今日お前誕生日なのに逆にモノもらっちまって。今度メシでもおごるわ」
そう言うと土方は山崎の肩をぽんと叩き、先ほどまでとはうって変わって鼻歌を歌いながら上機嫌で副長室へと入っていった。
その様子を見ながら、叩かれた肩を触りながら、食事に誘われたことを思い返しながら、山崎の唇はつり上がり、目尻はどうしようもなく垂れ下がっていた。
その時だった。
山崎は背後から殺気を感じた。
「お、沖田隊長…?」
「もちろん、そのメシにゃあ俺も連いてったってかまわねぇよなぁ?」
いつの間にか総悟は山崎のすぐ後ろにつけていた。多分、後ろの人物は刀に手をやっていて、自分は今にも斬られる運命にあるに違いない。山崎の本能がそう感じ取っていた。
「ももももも、勿論ですよぉ沖田隊長…!」
「なら、いいでさァ」
後ろからチン、という高い音がした。あと少しで上半身と下半身がさよならするところだった。沖田隊長自身がし向けたことなのに、と山崎は思った。とりあえず、山崎は振り向いた。
「沖田隊長」
「なんでぃ」
「誕生日プレゼント、ありがとうございます」
真正面を向いて真面目な顔で真剣にお礼を言った。
すると沖田はほんの少し驚いてから、振り返り歩き出した。
「はん、野郎の嬉しそうな顔が誕生日プレゼントってか。気持ち悪ィ」
その背中が照れくさそうに見えて、山崎は思った。
『素直じゃないなぁ、沖田隊長』
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